我が家の防音室を皆様にお伝えする方法を色々と考えたのですが、専門知識の乏しい私が専門書の様な説明をするのは難しかった為、ここでは丸吉の吉仲さんや千葉工務店の大工さんたちとどのような話をし、どのような流れで安く効果的な防音室が出来たかを書く事にしました。


○ポイント1、壁の鳴りを止める。

 我が家に防音室を作るにあたり最もポイントを置いたのが「いかに壁の鳴りを止めるか。」と言う事です。

 皆さんは防音室と言うと、壁、床、天井等に吸音材を張り巡らせた部屋を思い浮かべるのではないでしょうか。私が幾つかの業者に相談した時も吸音材を多用した部屋を用意して来ました。しかし、吸音材を使って防音効果を高める為には、音源から壁迄の距離と吸音材を張る面積を多く取る必要があります。我が家の様に6〜7畳程度の部屋に吸音材を張り巡らせても防音効果はあまり期待できません。
 また、我が家の様に木造建築の場合、壁が太鼓の様な構造になっている為、仮に防音室の内側の吸音が上手くいったとしても、壁が小さくなった音を増幅してしまうのです。試しに部屋の壁を拳骨で叩いてみて下さい。叩いている部屋ではそれほどではない音が壁の反対側では壁全体が振動するような音、しかも低音になっていると思います。この低音を止めるのは非常に難しく、また人に不快感を与えるのです。反対に高音は吸音材で比較的簡単に止める事が出来ます。そこでこの厄介な低音をできるだけ押さえる構造を作る事を最優先にしたのです。
 木造の家の中にレンガの部屋を作る、壁を二重構造にしその間に砂を流し込む、防音効果の高いガラスブロックを使って部屋を作る、外壁を家の中に使う、壁にタイルを貼る等々色々とアイデアを出したのですが、木造の家に使うには材料が重すぎたり、大工さん以外に何人もの専門職が必要になり、低コストの防音室には不向きだったり、加工が難しかったりで吉仲さんからOKが出ませんでした。

 そこで目を付けたのがスピーカーの箱です。スピーカーは余計な振動を止める為に色々と工夫されています。この構造を部屋に使ってしまおうと思ったのです。しかも多くの場合、材料は木が使われています。これならば大工さんが普段使っている材料で作業が出来ますし、材料も安い物で何とかなります。重さも施行を工夫すれば何とかなります。やっと吉仲さんからOKが出ました。


○ポイント2、お風呂場を作る。

 次に考えた事が、壁の基本構造は「音を部屋の内側に跳ね返すものにしよう。」という事です。外に音を漏らさない為には壁に音を吸わせるより壁に音を跳ね返させた方が効果があるはずです。また隙間をできるだけ減らし、密閉した構造を作る事も大切です。しかし、このような構造の部屋の中では音が響いてしまいます。つまり、お風呂場の中の様になってしまうのです。お風呂場では楽器等吹けません。吉仲さんも大工さんもそれを心配し吸音材を使う事を私に勧めましたが、私は「どんな事になっても文句は言いません。」「思いきりお風呂場を作って下さい。」とお願いしました。
 私は「たとえお風呂場になったとしても低音さえ止まっていれば、後からいくらでも吸音はできる。」と考えていたのです。実際、出来上がった防音室はお風呂場にはなっていません。

壁の鳴りを押さえ、音を跳ね返す構造を作る為に、違う種類の板を何枚も張り合わせる事にしました。どんな種類の板も特有の鳴りを持っています。ですから、同じ種類の板を何枚も張った場合あるポイントでの鳴りが大きくなってしまいます。そこで、違う種類の板を何枚も張り合わせる事にしたのです。我が家では石膏ボード(2種類)と合板を合計5枚(元の壁も含めて)張りましたが、実際は3枚程度で十分壁の鳴りは止まり防音効果は出ていました。材料を組み合わせるのは効果が高い様です。
 ただ、これには大工さんの腕も関係ありそうです。最初は「こんなんで音が止まるのかね〜。」と言っていた大工さんも、私の考えを理解してからは、壁を叩きながら作業を進め、鳴りの大きい所には何か細工をしていました。また、隙間を無くす為に貼り方も色々と工夫をしていました。やはり、このあたりは経験豊富な職人さんにまかせるのが一番の様です。そして、表面には吸音用のボードを張り付けました。壁の吸音はこのボードだけですが、充分な効果を発揮しています。


○ポイント3、吸音を考える。

 我が家の防音室は1階に作ったので、天井も同様に鳴りを止める必要があります。ただ、強度を考えると天井には壁の様に何枚も板を張る訳にはいきません。そこで、天井には普通の石膏ボードと防音用の石膏ボードを2枚だけ張り付けました。壁に比べるとちょっと頼り無い感じですが、天井を二重構造にし、吸音材を張り詰める事でそれを補っています。

 天井に直接張り付けたボードは壁同様隙間なく張り詰めてもらっていますが、そうで無い方のボードは少し隙間を作り音がもれるようにしてもらっています。まず、表面に張った吸音用のボードである程度音を吸わせ、更に、高密度のグラスウールで残りの音を吸わせる用にしたのです。そして、吸いきれなかった音を天井に直接張ったボードで跳ね返す様にしたのです。こうすれば少々頼り無い天井でも充分な防音効果を発揮できます。欠点はどうしても厚みが必要になる事です。防音効果だけを考えれば、二重構造のボードの両方共隙き間なく張った方が良いのですが、折角の吸音材を部屋の響きを押さえる為に利用する為に、表面に近い方のボードには隙き間を空けたのです。これも上手い事いきました。
 また、柱の間隔は通常よりも狭くしてもらっています。これは天井が鳴ってしまった場合、その音を少しでも高くする為です。これは大太鼓と小太鼓を思い浮かべていただければ解ると思います。大きな枠に皮を張った太鼓は低い音でなり、小さな枠に皮を張った太鼓は高い音で鳴ります。これと同じ様に、小さな枠に板を張ると鳴る時の音が高くなるのです。鳴りを高くする理由は壁と同じで、高い音は後から比較的簡単に止める事ができるからです。

 床は基本的には壁と同じ構造にしました。ただ、床の場合は壁や天井と違い、音の振動だけで無く直接振動が伝わります。それを吸収させる為にインシュレーション・ボードを使っています。そして、表面には吸音を考えコルクの床材を使用しています。

 材料の組み合わせ方、使い方は場所によって違いますが、鳴りを止め、音を跳ね返す構造の壁、床、天井を作り、表面に吸音材を貼ると言う構造は同じにしました。


○ポイント4、音を逃がす。

 次に、防音室の基本構造が出来上がった時に、私は壁、床、天井に一つずつ穴を開けるように頼みました。その理由の一つは換気です。密閉度の高い部屋で管楽器を演奏するとあっと言う間に酸欠になってしまいます。換気は普通の部屋以上に神経を使わなければなりません。もう一つは音の一部を外に逃がすのが目的です。防音室から音を逃がすと言うのは一見矛盾しているように見えます。一生懸命密閉度の高い部屋を作ってくれた大工さんも「換気以外に穴が必要なのか?」「折角、音が止まっているのにわざわざ逃がすのか?」と初めは納得してくれませんでした。
 経験から感じていた事で、科学的にはどうなのか解りませんが、音もエネルギーです。狭い所に閉じ込めるよりは、どこかに逃がしてあげた方が弱まるはずです。普通の住宅に完璧な防音室を作る事は不可能です。生活に支障をきたさない、近所に迷惑をかけない程度の減音室を作ると考えた方が、より良い物ができると思ったのです。少々漏れても良い方向に少し音を逃がしてあげる事で、他の部分の防音効果を高めようと思ったのです。そして、我が家の場合、北側は少々音が漏れても問題がなかったので、北側の壁、床に5cm程の穴を開けてもらいました。そこに左の写真の様なパイプを自作して取り付けました。パイプの内側には防音用のテープや吸音材が貼ってあります。
 最も大きな穴は換気扇の穴です。
これは天井に開けてもらました。パイプはできるだけ長く取り、パイプの周りには防音用のテープを貼ってもらいました。そして、その排気口は我が家の廊下に付けてもらいました。大工さんも「長年大工してるけど、こんなの初めてだ。」と笑っていました。家の中に音を漏らす事で外への影響を小さくしようと思ったのです。防音室で焼肉をする事もないので、これは特に問題はありませんし、外への防音効果も高くなりました。

 音を逃がすと言うのは効果があるように思います。また、吸気用の穴(壁と床)がある事で換気の効率も高くなりました。


○ポイント5、開閉部分の防音。

 一番面倒なのがドアや窓などの開閉部分です。幸いにも窓に関してはインナー・サッシと呼ばれる、現在ある窓の内側に取り付けられるサッシが幾つかの企業から発売されています。ガラスも一般の物から防音効果の高いペア・ガラスまで色々と選べます。窓を二重にする事は随分と防音効果があります。また、2枚のガラスの間隔を15cm以上取ると防音効果はとても高くなるそうです。我が家は13cm程しか取りませんでしたが、充分な効果を発揮しています。

 問題はドアです。防音ドアは種類も少なくどれも高価です。また、今回私が行った方法では壁の厚みが増え、既製品ではサイズが合わなくなってしまいました。この様に既製品が使えないケースは非常に多いと思います。この場合は注文になるのですが、これがまた高いし、納品までにやたら時間がかかります。

 さて、今回は低コストの防音室を作るのが目的ですので、迷わず(本当は予算の関係で・・・。)一番安い防音ドアを使用してみました。残念な事にあまり効果はありませんでした。ドアをしめても普通の話し声がハッキリと聞こえてしまうのです。一番高価な材料だっただけにがっかりです。色々と実験をしてみて、防音用のテープをドアの隙間に貼ると効果があることを発見しました。このテープの貼り方を工夫し、何とか我慢できる程度にはなりました。

 ドアはまだ研究の余地がありそうです。なにか良い情報をお持ちの方は是非教えて下さい。


○ポイント6、部屋らしくする。

 自宅に防音室を作る場合、普通の部屋として使う事の方が多いのではないでしょうか。また、密閉された空間の場合、少しでも開放感が有った方が良いと思います。そこで、表面にはちょっと割高なのですが、防音用の材料を使いました。それにより、壁には一般の壁紙が貼れるようになります。また、天井にも防音用の化粧天井板を、床にはコルク付きの床板を使いました。これで部屋らしくなります。また、隣の部屋との間に覗き窓を作りました。狭い部屋の場合これで少しは開放感が増すはずですし、ミキサー・ルームを作る場合等はどうしても必要になるはずです。ただ、どのようにして作るかが問題でした。しかし、これは大工さんの職人芸であっと言う間に解決してしまいました。これにエアコンを付けて完成です。防音室は断熱効果も高いのでエアコンも1段小さめの物でも十分です。

 これで、我が家を訪ねた人の殆どが防音室と気がつかない防音室が出来ました。興味が有る方はご連絡下さい。